かわら版
 葛巻町クリーンエネルギー施設見学レポート
2017年2月7日 
環境広報部会 
 
 
 
  1.日時 2016年10月31日(木)11:00 〜 16:00
 
    2.見学先 岩手県岩手郡葛巻町  
 
    3.部会参加メンバー 主査:北岡正樹(日本板硝子)/副主査:野村由美子(AGC旭硝子)/白石靖典(板硝子協会・GIC事務局)/瀬上信(電気硝子工業会)/齋藤準(ニューガラスフォーラム)/黒光織恵(日本硝子製品工業会)/ 高橋啓市(日本山村硝子)/宮本雅子(外部スタッフ)  
 
4.応対者 葛巻町役場 農林環境エネルギー課 鈴口様
 
    5.目的 2016年GIC環境広報部会の活動の一環として、地方自治体の先進的な環境への取り組みを見学し、クリーンエネルギーやリサイクルの実態を学ぶ  
 
   

6.見学レポート

 
 
    (1)葛巻町について  
 
 
 
 
   町の面積の86%が森林であり、古くは盛岡に至る塩の道の宿場町として栄えた。昭和30年の3町村合併時の人口約16,000人をピークに人口の流出が止まらず、現在でも年間100〜150人の減少となっており平成28年4月現在では約6,500人となっている。雇用創出のために地域の自然を最大限に活かすことが大切と考え、酪農と林業の振興に重点を置いた。ホルスタイン種の導入は日本では横浜が最初だったが、その8年後の明治25年には葛巻町でも飼育を開始し、昭和50年代の大規模牧場開発事業を経て、現在では東北一の酪農王国となっている。森林の伐採地には寒さに強いカラマツを植林し、林業の再生にも取り組んだ。訪問日の頃はすでに紅葉のピークを過ぎた辺りとうかがったが、カラマツの黄金色と落葉樹の鮮やかな色が混じり合い、景観がとても美しかった。
   大規模牧場開発が端緒となり、風力発電がスタートしやすい環境が整ったそうだ。また、家畜の糞尿処理の必要性に迫られたことから、バイオガスプラントの導入が図られた。木質バイオマスや太陽光発電とともに、1999年に葛巻町新エネルギービジョンが策定されているが、当時の日本ではかなり先端的な試みであった。
 
 
    (2)クリーンエネルギー施設の見学  
 
  (2-1)ゼロエネルギー住宅  
 
 
   地中熱のヒートポンプと太陽光発電等の自然エネルギーのみで生活できるモデルハウス。平成19年の設置当時は寒冷地仕様のエアコンもなく、マイナス20℃を超える地域でも暖房が可能な地中熱ヒートポンプは画期的だった。しかし、市場が開けておらず海外製機器の使用、機械の設置に面積が取られる、費用が高額(設置当時600万→現在国内メーカーでは300万ほど)、など普及に向けて問題もあった。また、海外製機器の為メンテナンスなどの維持管理が大変とのことであった。窓には断熱複層ガラス、内装材には耐久性、耐震性に優れたカラマツの集成材が使用されている。
 
 
     
 
  (2-2)木質系バイオマスガス化発電設備  
 
 
   森林整備の際に発生する間伐材を有効利用する目的で、平成16年度〜平成20年度に稼働していた実証試験施設。間伐材をチップ化し、ガス化することで発電していた。最後に排出される木炭灰は土壌に還元され、資源循環型の森林活用の理想形と思われるが、実証試験終了後は残念ながら稼働していない。当初は解体撤去される予定であったが町に無償譲渡され、このシステムの紹介の場となっている。
 
 
     
 
  (2-3)畜ふんバイオマスシステム  
 
 
   家畜排泄物の適正な処理と、温室効果ガスであるメタンの抑制を目的として平成15年に導入された。乳牛9000頭、日産400t以上の家畜排泄物から、電気と熱エネルギー、良質な肥料を生産し、理想的な循環サイクルが完成している。平成24年度から、町内一部の一般家庭や事業所の生ゴミも投入されている。匂いはまったく気にならなかった。
 
 
     
 
  (2-4)太陽光発電(総出力700kw)  
 
 
   葛巻中学校には県内初の大規模太陽光発電が設置され、校舎で使用する電力の約1/4をまかなっている。北国ならではの積雪や日照時間の不足などのデメリットはあるが、環境教育の一環として位置づけられている。
 
 
 
 
  (2-5)風力発電(総出力22,200kw)  
 
 
   エコワールドくずまき風力発電所(袖山高原)は、1000m以上の高地に設置された、世界でも珍しい日本初の施設として平成11年から稼働している。その後、平成15年にはグリーンパワーくずまき風力発電所(上外川高原)がスタートした。風力発電は風速6m以上で採算が合うとされているが、袖山高原では7m、上外川高原では8m以上の強風が吹いているそうである。通常なら人間の活動に有利に働かない強風が、まさに自然の恩恵として活かされる素晴らしい取り組みである。
   グリーンパワーくずまき風力発電所はイヌワシの営巣地、チャマダラセセリの食草の生育地であることから、それらの希少動植物に配慮し、自然との共生を目指したモデル的なウィンドファームとなっている。これらの風力発電所は町のシンボルとして、観光客誘致にも大きく貢献しており、今後の展開も多いに期待されている。
   風力発電の翼には硝子繊維強化プラスチックが使われることから、ガラス産業会としても今後の動向が気になる所である。
 
 
     
 
  (3)その他  
 
 
   木質バイオマスの利用事例としてパルプチップの製造過程で不要となっていた樹皮から作られるペレットを燃料としたペレットストーブやペレットボイラーの導入も行っている。現在はペレットの値段が上がり、灯油価格が安定したため、なかなか事業が進まないのが現実だそうだが、南部鉄器とのコラボレーションでペレットストーブを独自に開発する県内企業のことなど、貴重な取り組みについてもお話がうかがえた。今後はこのような分野にも可能性が広がっていくのではないかと思われた。
   また、地域で採れる山ぶどうを原料としたワインの生産にも力を注いでおり、ドイツに人材を派遣して技術を取り入れたという。葛巻町は事業への出資や土地の貸与で収益を上げるのを基本的なスタンスとしているが、山ぶどうワインはそのクオリティやオリジナリティの高さから、すでに実績をあげ、今後の期待も高いようだ。くずまきワイン主催の葛巻高校のドイツ研修は人気が高く、国際交流にも一役買っている。
 
 
     
 
  (4)最後に  
 
 
   葛巻町がクリーンエネルギーの町であることは以前から有名であるが、実際に現地を案内していただき、自然との共生を真摯に目指す姿勢に改めて感銘を受けた。また、その厳しさの一端にも触れることができた。これだけ努力しているにも関わらず、人口の流出が止まらないのはなぜなのだろうか?エネルギー自給率160%とうたっているが、町民は実際には電力会社から電力を買っている。風力発電は大量の電力を発電しても、隣接する都市の変電所へ送られ、売電されている。町民に安価でクリーンな電力を供給する仕組みが必要ではないか。今後は電力自由化の動向を探るなど、新たな発展の可能性の芽はすでにその土壌に蒔かれているように思えた。
 
 
  (5)葛巻町関連リンク  
 
  クリーンエネルギーの取り組み  
  葛巻高原牧場  
 
    以上