技術委員会
  政策提言型活動報告(ガラス工場溶融炉廃熱の有効利用に関する調査)
平成29年2月7日 
プロセス材料技術部会
 
       
概要

 窯業・土石製品製造業のエネルギー消費量は全製造業の4%となっており、窯業・土石製品製造業はエネルギー消費における燃料使用の割合が高い業種である。また、ガラス溶解炉のエネルギー消費は全製造工程の60〜70%を燃焼によるガラスの溶解工程が占めており、ガラス溶解炉からの排熱エネルギーを積極的に利用することは、将来的かつ工業的に利が大きいと言える。本活動では、国内製造業における廃熱事情、製鉄所での廃熱とその利用状況、および廃熱再利用を目的とした熱電素子の種類と製品群、設置例等の調査、および、ガラス溶融炉において熱電変換素子を設置し実用性の可能性の検証を行った。以下にその結果をもとにした、課題および提言について報告する。
 
課題および提言

1.低温排熱の活用を積極的に進めること

 現在、工場等で発生する未利用熱は300℃以下のエクセルギーの低い低温排熱が大半を占める。したがって、更なる省エネルギーを進めるためには、このような低温排熱の活用が重要である。
 しかしながら、一般的な排熱利用技術において低温排熱を対象としたものはエクセルギー効率が低いために採算性が悪く、企業の投資判断における優先順位としては下位に位置づけられることが多く、また技術的な課題(酸性露点による低温腐食等)もある。このため、設備導入には企業への補助制度(補助金、税制優遇など)やその他CSR等が必要で、これらによって企業の投資インセンティブが大きく寄与するものと考えられる。近年、既存の技術では回収が困難であった排熱を補助制度を利用して設備導入を行い、その利用を通じた生産エネルギーの削減を行った事例(空気予熱器廃熱利用スターリングエンジン:窯業炉における製造プロセスでの排熱利用実証事業等)も報告があり、ガラス溶融炉においても補助制度の利用は低温排熱利用に有効であると考えられる。低温排熱は存在量が多く、そのほとんどが回収されていないため、有効に利用できる方法があれば省エネルギーに大きな効果をもたらすと考えられる。

2.熱電変換モジュール導入ための初期条件を詳細に検討すること

 今回の結果から、ガラス溶解炉にはまだ利用できていない熱源が多くあり、熱電変換で熱を電気に変える技術は今後有効であると考察する。発電に関しては、さらに効率化が進めば実用可能であるが、設置の仕方や操炉への影響等をよく検証していく必要がある。
   ・モジュール自体の変換効率の向上等
   ・ガラス溶融炉(加熱炉)の設計初期段階での安価な冷却装置等への設備投資検討

【ガラス溶融炉での実炉試験】

ゼーべック効果を利用した熱電変換素子は古くから検討されてきたが、最近低温域で比較的良好な変換効率を示す素子が開発されてきた。実際にガラスびん製造の工場に熱電素子を設置し熱電発電がどの程度可能かを検証してみた。ガラス溶解炉はエンドポート炉であり、蓄熱室の中を観察するための覗き窓を利用して装置を設置した。熱電素子の種類は、高温域用の酸化物熱電変換素子と低温域用のBiTe系(ビスマステルル系合金)を組み合わせた熱電変換モジュールを使用した。装置としては、高温側と低温側の温度差で起電させるため、低温側には水冷装置を設置した構造になっている。装置の周囲を密閉せずに熱の流れをつくると約55Wの発電効果が得られた。しかし装置の周囲をグラスウールで密閉し熱の流れがなくなると、発電した電力は10分の1まで下がった。装置は水冷方式のため、配管の設置や水の供給、排水等の設備面でかなり大掛かりになる問題も残った。実際のガラス製造現場における実験から、高温域用酸化物熱電変換素子と低温域用BiTe系(ビスマステルル系合金)を組み合わせた熱電変換モジュールを用いて熱を直流電気へ変換することは十分に可能であること、熱電変換モジュールにおいては温度差が重要な因子であること、そして水冷による温度差の創出が効率よい発電を実現することが示された。しかしながら、現時点での熱電変換モジュールによるガラス溶融炉における発電は、本実験で得られた発電量から勘案して水冷装置やモジュール自体の初期投資費用を回収できるか疑念が残る。ゼーベック係数の更なる向上が達成されれば、初期投資を回収できるだけの可能性は十分にあることが推察された。

 
    以上
 
    「ガラス工場溶融炉廃熱の有効利用に関する調査結果」報告書(会員限定)